2025年04月14日 08:07
「あたしなにもできないのよ」
「なんていうのか・・ああ言葉が出てこない」「死にたい」
「あたしもう洗濯が出来ないわ」
「やりたいと思うことはなにも実行できないのよ」
「こころのゆれが容易に身体的な不調を招く。
たとえば、不安が不眠を生み、不眠がふらつきをもたらし、
その結果、転倒して骨折さえ招く。
抑うつ的になって水を飲むのもおっくうになったあげく脱水を来たし、
その結果、脳梗塞を起こしてしまうことさえある。」
「私は今、肺癌を病んでいる。まったく無症状だったのだが、
昨年春の検診で発見され、精査の結果、
すでに全身に転移しいてることがわかった。」
空きベッドの少ない病院からは、
肺炎の治療2週間が過ぎたら退院して欲しいと言われました。
・・・母の姿は変わり果てていました。
ボサボサの髪の毛に痩せこけた頬、
大きな口をあけていびきをかいていました。
何も食べることができなくなっていた母には点滴が付けられていました。
「遺漏などの延命措置を施す段階ではなく、看取りの段階である」
と医師から告げられたと弟から聞いていたものの、母の姿には驚きました。
弟は、東京のある区役所で働いており「老人福祉」を担当していました。
病院は早く退院してくれと言い、入院前に入所していた老人保健施設も、
入所予定だった特別養護老人ホームも引き取れないと言い出しましたが、
弟の粘り強い交渉力によって、
特別養護老人ホームが「看取り」を引き受けてくれました。
姉、私、弟が特養提携の医師に呼ばれ、「看取り」の説明受けました。
特養での「看取り」は、医療行為は一切行わないと。
点滴を絶ってから、およそ7日から10日で息を引き取るとのこと。
姉と私と弟が交代で傍に付き添うことにしました。
それからは壮絶な7日間でした。
母の意識はしっかりしているとは思えないのですが、
「お水をちょうだい!お水、お水をちょうだい!」と繰り返し訴えます。
お水を飲めば、肺に入って苦しむことになるので、お水は飲めません。
「死んでもいいから、お水をちょうだい!お水・・・」
ふたりの孫がひ孫を連れてお見舞い(お別れ?)来てくれました。
孫やひ孫が来たことはわかるのですが、
「お水をちょうだい!」としか言いません。
「お水を飲むと苦しくなるから、ね」と言うしかありませんでした。
もしここが病院やホスピスだったら、点滴で鎮静剤を注入してもらい、
こん睡状態になれば、「お水をちょうだい!」と言えなくなったでしょう。
「お水をちょうだい!」と言う方も、聞くほうも辛いものがありました。
介護のスタッフ、看護師さんが入れ替わり世話をしてくれます。
「はい、お水をあげましょうね」と言って、
水を含ませた綿で口の中を拭いてくれます。
作家の山口瞳さんが肺がんでなくなる前日にホスピスの医師が、
「鎮静剤を少し点滴で入れれば楽に呼吸ができるようになります。
深い昏睡状態をつくってあげれば苦痛を感じなくなるのです。
どうなさいますか」と、家族の判断を求めた時、
楽にはなるが、意識は戻らなくなることを知っていた息子さんは心の中で、
「お父さん、ぼくは貴方を殺します」と言って、医師に同意したそうです。
母の子ども三人も「看取り」で母が最後を迎えることに同意していましたが、
「お水をちょうだい!」という母の訴えを聞き続けるとは予想しませんでした。
作家の白石一郎さんは、「お水」と言って、ごくごく飲み、
「おやすみ」という言葉を残して眠りにつき逝ったといいます。
7日目の午後でした。
いつものように介護スタッフが下の世話をしてくれたのですが、
今日は特別に強烈な臭いが部屋中に漂いました。
そして看護師さんが、「今日はお泊りになった方がいいと思います。」
と最期の日が近いことを教えてくれました。
急いで姉と弟に電話して、その夜は姉が泊まり、
その後交代で泊まることにしました。
翌朝5時45分、姉からメールが入りました。
「お婆さん亡くなりました。まだ温かい。泊まって良かった。」
私、連れ合い、弟、弟の妻が母のもとに駆けつけ、
遠方から孫たちも来てくれました。
東京から駆けつけてくれた医師に死亡診断をしてもらい、
介護スタッフが「エンゼルセット」で死後処理と死化粧をしてくれました。
母の好きだった和菓子を枕元に置いてくれました。
母が自分で仕立てた着物を着せてもらい、葬儀屋さんに連絡しました。
姉によると、あさ5時30頃静かに息を引き取ったということです。
母と一番仲の良かった姉に看取られて、母は父のもとへ逝きました。
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ゴーヤー茶の驚きは、
医師が「延命治療の段階ではなく、看取りの段階」と言ったことです。
「延命治療をしますか?」と聞かれるとばかり思っていました。
「現在における死とは、治療の停止という技術的現象であり、
その停止の決定は医師および病院のチームによってくだされるのです。」
フランスの歴史家フィリップ・アリエス著『死と歴史』
最後まで読んでくださりありがとうございました。
次は貴方の番、いえゴーヤー茶の番です。
認知症より癌の方がいいなんて言っていたゴーヤー茶、
どうやら認知症と癌は一緒にやってくるようです。